「借りてきた猫」の意味・由来は?1924年の用例、例文と英語表現を徹底解説
「借りてきた猫」とは、普段は活発に話したり、元気に振る舞ったりする人が、慣れない場所や改まった場面で急におとなしくなる様子を表す慣用句です。職場での会議、初対面の人との食事、恋人の実家へのあいさつなど、日常のさまざまな場面で使われています。
この表現の由来として知られているのが、見知らぬ場所では警戒して普段どおりに動けなくなる猫の習性です。さらに、国語辞典には、大正13年(1924年)に発表された葛西善蔵の小説『蠢く者』に「借りられて来た猫」という早い用例が記録されています。言葉の意味だけでなく、歴史的な用例や「猫をかぶる」との違い、英語での自然な言い換えまで押さえると、使い方がより明確になります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 意味:普段とは違って、非常におとなしく、かしこまっている様子を表す慣用句。
- 語源・由来:慣れない環境で警戒する猫の様子にたとえた表現。ネズミ捕りのために他家から猫を借りたという説明も広く知られている。
- 歴史と使い方:1924年4月の葛西善蔵『蠢く者』に早い用例がある。「猫をかぶる」とは、意図的に本来の姿を隠すかどうかという点で異なる。
【意味を正しく理解】「借りてきた猫」はどんな人を表す言葉?
「借りてきた猫」は、読み方を「かりてきたねこ」とする慣用句です。小学館の『デジタル大辞泉』では、普段と違って非常におとなしいありさまを表す言葉として説明されています。
大切なのは、単におとなしい人を指すのではなく、普段の様子と比べて、いつになく静かになっていることを表す点です。
たとえば、普段は友人たちの中心で冗談を言っている人が、初めて訪れた取引先では一言も発しなくなる。家では元気いっぱいの子どもが、親戚の集まりでは大人のそばから離れず、静かに座っている。このような場面で「借りてきた猫のようだ」と表現します。
本人の性格が急に変わったというより、場所や相手が変わったことで、普段の振る舞いが表に出なくなった状況を描写する言葉です。
「おとなしい」との違いは、普段とのギャップ
「おとなしい」は、性格や行動が穏やかで、騒がしくないことを幅広く表します。生まれつき口数が少ない人にも使える表現です。
一方、「借りてきた猫」は、いつもの様子を知っている人が、その人の変化に気づいたときに使うのが基本です。
- 「彼女はおとなしい」:普段から穏やかで静かな性格である可能性を含む。
- 「彼女は借りてきた猫のようだ」:普段の彼女とは違い、今はひどく静かになっている。
- 「彼女は初対面の人の前ではおとなしい」:特定の状況での傾向を説明している。
つまり、いつも静かな人を見て「借りてきた猫」と表現すると、本来の意味から外れる場合があります。普段は活発なのに、慣れない状況で急におとなしくなるという対比が、この慣用句の核心です。

【語源・由来を解説】なぜ猫を借りるとおとなしくなるのか?
「借りてきた猫」の由来としてよく説明されるのは、猫が慣れない場所では警戒し、普段どおりに行動できなくなるという習性です。
猫は環境の変化に敏感な動物です。知らない場所に連れて行かれると、周囲を慎重に確認したり、物陰に隠れたり、動きを控えたりすることがあります。自宅では自由に歩き回っていた猫も、初めて訪れた家では隅でじっとしているかもしれません。
このような様子を人間に重ね、いつもは元気な人が慣れない環境で急に静かになることを「借りてきた猫」と表すようになった、という説明です。
ネズミ捕りのために猫を借りたという説
もう一つよく紹介されるのが、ネズミを捕らせるために、ほかの家から猫を借りてくるという説です。
かつて、猫は家屋や食料をネズミの被害から守る存在でもありました。そのため、ネズミ捕りを期待して猫を借りてきても、知らない家では警戒してしまい、期待したように動かない。そこから、普段とは違っておとなしくなった状態を表す言葉が生まれたと説明されます。
ただし、このネズミ捕りの話は、慣用句の由来として広く流布している説明です。語の成立時期や命名の経緯を直接証明する史料が確定しているわけではなく、厳密には語源の説明と歴史的に確認できる用例を区別する必要があります。
「借りてきた猫」になる心理的背景
人間が慣れない場所で急におとなしくなる背景にも、猫のたとえと重なる部分があります。初めての職場や目上の人との面談では、相手との距離感や、その場で求められる振る舞いがわかりません。
そこで人は、発言する前に相手の反応を慎重に考えたり、失礼なことを言わないよう言葉を選んだりします。周囲からどう見られるかを意識するほど、普段なら自然にできる会話が難しくなることもあります。
- 評価への意識:失敗や失礼な発言を避けたい気持ちが強くなる。
- 環境への不慣れ:その場のルールや人間関係がわからず、様子を見る時間が増える。
- 立場の違い:上司や取引先など、相手との関係を意識して発言を控える。
- 慎重な情報収集:まず相手や場の雰囲気を理解してから話そうとする。
ただし、静かになる理由は人それぞれです。緊張している場合もあれば、単に話を聞いている場合や、慣れるまで観察する性格の場合もあります。「借りてきた猫」という表現だけで、本人の心理状態や性格を決めつけることはできません。
【1924年の歴史的用例】葛西善蔵『蠢く者』に登場した「借りられて来た猫」
「借りてきた猫」がいつから使われているのかを考えるうえで、重要な資料となるのが、作家・葛西善蔵の小説『蠢く者(うごめくもの)』です。
『精選版 日本国語大辞典』は、この作品の一節を「借て来た猫」の初出の実例として挙げています。青空文庫の作品情報によると、『蠢く者』は1924年(大正13年)4月の『中央公論』に掲載されました。
作品中では、語り手の部屋の隅に座っている25歳のおせいについて、「借りられて来た猫かのやうに」と描写されています。現代の一般的な表記である「借りてきた猫」とは少し異なりますが、意味のつながりがはっきりと読み取れる用例です。
歴史的な用例からわかること
| 時期・項目 | 確認できる事実 | 読み解くポイント |
|---|---|---|
| 1924年4月 | 葛西善蔵『蠢く者』が『中央公論』に掲載 | 「借りられて来た猫かのやうに」という早い用例が登場する。 |
| 国語辞典の記録 | 『精選版 日本国語大辞典』が同作品を初出の実例として採録 | 少なくとも大正期の文学作品で、この比喩が使われていたことを確認できる。 |
| 2026年現在 | 『デジタル大辞泉』などの国語辞典に意味が掲載されている | 普段とは違って非常におとなしい様子を表す慣用句として定着している。 |
ここで注意したいのは、1924年が「借りてきた猫」という言葉の誕生年だと確定したわけではないことです。辞書に記録された初出の実例は、現存する資料で確認できる使用例の一つであり、それ以前に口語で使われていた可能性まで否定するものではありません。
『蠢く者』の描写は何を伝えているのか
この作品のおせいは、語り手の部屋の隅で背を丸くして座り、語り手の不機嫌な表情をうかがっています。単に「静かな女性」と説明するのではなく、体を小さくして警戒する猫の姿に重ねることで、周囲に対する不安や居心地の悪さが伝わる描写になっています。
つまり、この用例は「おとなしい」という状態だけでなく、その場に馴染めず、身を縮めているような様子まで表現しています。現在の会話でも、相手が緊張している場面や、普段との落差を印象的に伝えたい場面に適した言葉です。
【使い方・例文】日常会話で自然に使うポイント
「借りてきた猫」は、日常会話では「借りてきた猫のようだ」「借りてきた猫みたいにおとなしい」「借りてきた猫になる」といった形で使われます。
本人の性格を断定するよりも、特定の場面で普段とは違う様子になっていることを描写するのが自然です。
職場・ビジネスでの例文
- 普段は会議で積極的に発言する彼が、役員の前では借りてきた猫のようにおとなしかった。
- 新しい取引先への初訪問では、いつも冗談を言う部長も借りてきた猫になっていた。
- 新人の彼女は、社内の懇親会では静かだったが、慣れてくると本来の明るさを見せるようになった。
仕事の場面では、普段の姿との違いを表現するのに便利です。ただし、本人の緊張や慎重さをからかう意図で使うと、相手に不快感を与える可能性があります。
学校・家庭・人間関係での例文
- 家ではあんなに元気な息子が、初めて会う先生の前では借りてきた猫のように静かだった。
- いつも友達とにぎやかに話している妹も、恋人のご両親に会ったときは借りてきた猫みたいだった。
- 祖父母の家に着いたばかりの子どもたちは、知らない親戚が集まっているせいか、借りてきた猫のように座っていた。
- 彼は初対面では借りてきた猫のようだが、打ち解けるとよく話す。
これらは慣用句の使い方を示す例文です。いずれも「普段は違うのに、その場では静かになっている」という対比が含まれています。
「借りてきた猫のようにおとなしい」は正しい?
「借りてきた猫」という表現には、すでに「普段と違って非常におとなしい」という意味が含まれています。そのため、「借りてきた猫のようにおとなしい」は、意味の一部が重なる言い回しです。
しかし、会話では自然に使われる表現であり、誤用と決めつける必要はありません。「借りてきた猫のようだった」でも、「借りてきた猫のようにおとなしかった」でも、状況は十分に伝わります。
【類語・言い換えと誤用】「猫をかぶる」「内弁慶」とは何が違う?
「借りてきた猫」と似た表現には、「猫をかぶる」「内弁慶」「人見知り」「萎縮する」などがあります。ただし、それぞれが表す意味や、使う場面は同じではありません。
意味とニュアンスの違い
- 猫をかぶる:本来の性格や態度を隠し、おとなしく見せること。意図的に取り繕うニュアンスがある。
- 内弁慶:家の中では威勢がよいのに、外では気が弱くなる人。家庭内と外での態度の違いに焦点がある。
- 人見知り:知らない人に対して緊張したり、打ち解けるまで時間がかかったりすること。
- 萎縮する:相手の威圧感や状況への不安などから、気後れして自由に振る舞えなくなること。
- かしこまる:改まった場で、礼儀正しく、堅苦しい態度を取ること。
- 口数が少ない:話す量が少ないこと。普段とのギャップや緊張の有無までは含まない。
特に間違えやすいのが、「借りてきた猫」と「猫をかぶる」の違いです。
初めての職場で緊張し、普段より口数が減ってしまった人は「借りてきた猫」と表現できます。一方、実際には活発なのに、相手によく思われるために意識的におとなしく振る舞っているなら、「猫をかぶっている」という表現が適しています。
もっとも、実際の人間の行動では、緊張と意識的な振る舞いが混ざることもあります。言葉を選ぶときは、本人の内面を決めつけず、目に見える行動や状況に合わせるとよいでしょう。
「借りてきた猫」の誤用に注意
よくある誤解は、単におとなしい人や、もともと内向的な人に対して使うことです。慣用句の意味を生かすには、普段の様子との違いがあるかどうかを考える必要があります。
- 不自然な例:「彼は昔から借りてきた猫の性格だ」
- 自然な言い換え:「彼は昔からおとなしい性格だ」
- 自然な使用例:「普段はよく話す彼が、社長の前では借りてきた猫のようになった」
また、「内弁慶」は家の中と外での態度の違いを表すため、初めての場所で一時的に静かになる人すべてに当てはまるわけではありません。「人見知り」も、人との接触に対する傾向を表す言葉であり、その場限りの変化を描写する「借りてきた猫」とは意味の範囲が異なります。

【英語表現】「as quiet as a mouse」は同じ意味で使える?
「借りてきた猫」に完全に一致する英語の慣用句は、一般的な英語表現にはありません。英語では、単に静かな様子を表すのか、普段より静かであることを強調するのかによって、表現を使い分けます。
1. as quiet as a mouse:ネズミのように静か
「as quiet as a mouse」は、とても静かにしている様子を表す英語表現です。日本語の「借りてきた猫」と同じく動物を使った比喩ですが、普段とのギャップや、慣れない環境で緊張していることまでは必ずしも含みません。
例文: She sat there as quiet as a mouse.
意味:彼女はそこに、ネズミのように静かに座っていた。
周囲に気づかれないほど静かにしている場面などに適しています。
2. unusually quiet:いつになく静か
普段の様子と比べて急に静かになったことを表すなら、「unusually quiet」が自然です。「unusually」は「いつもと違って」「異例なほど」という意味を加えます。
例文: He is unusually quiet today.
意味:彼は今日、いつになく静かだ。
会議や学校、家族との会話など、普段と違う様子を伝えたいときに使いやすい表現です。
3. quieter than usual:普段より静か
「quieter than usual」は、比較を通じて「普段より静かだ」と伝える表現です。「借りてきた猫」の意味を、できるだけ直接的に英語に置き換えたいときに向いています。
例文: She was much quieter than usual when she met my parents.
意味:彼女は私の両親に会ったとき、普段よりずっとおとなしかった。
慣れない相手の前で静かになったという状況も、文脈から自然に伝わります。
4. reserved:控えめな、打ち解けない
「reserved」は、感情や意見をあまり表に出さない、控えめな態度を表す形容詞です。人の性格や対人関係での傾向を説明する場合に使われます。
ただし、普段は活発なのに特定の場面だけ静かになるという意味は、それ自体にはありません。「借りてきた猫」のような一時的な変化を伝えたい場合は、「unusually quiet」や「quieter than usual」のほうが意図に合います。
英語に訳すときは、動物の比喩をそのまま移すことよりも、「とても静か」なのか、「普段より静か」なのか、「控えめな性格」なのかを区別することが大切です。
【借りてきた猫】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「借りてきた猫」は褒め言葉ですか?
A1:必ずしも褒め言葉ではありません。普段との違いを面白く表現することもあれば、緊張している様子をからかうように聞こえることもあります。仕事の場面などでは、相手との関係性や言い方に配慮すると安心です。
Q2:「借りてきた猫」はいつから使われている言葉ですか?
A2:『精選版 日本国語大辞典』には、葛西善蔵の小説『蠢く者』に見られる「借りられて来た猫かのやうに」という用例が採録されています。同作は1924年(大正13年)4月の『中央公論』に掲載されました。ただし、これは辞書に記録された早い用例であり、言葉の誕生年を確定するものではありません。
Q3:「借りてきた猫」と「猫をかぶる」は同じ意味ですか?
A3:同じではありません。「借りてきた猫」は、慣れない環境などで普段よりおとなしくなる様子を表します。「猫をかぶる」は、本来の性格や態度を隠して、おとなしく見せることを表すのが基本です。意図的に取り繕うニュアンスの有無が大きな違いです。
まとめ:意味・由来・歴史を知れば使い分けは難しくない
「借りてきた猫」は、普段は活発な人が、慣れない場所や改まった場面で急におとなしくなる様子を表す慣用句です。猫が知らない環境で警戒し、普段とは違う行動を取る様子が、言葉の由来として説明されています。
歴史的な手がかりとしては、葛西善蔵の『蠢く者』が重要です。1924年4月の『中央公論』掲載作に「借りられて来た猫かのやうに」という表現があり、『精選版 日本国語大辞典』にも早い用例として記録されています。
使い方で押さえておきたいのは、単に「おとなしい」という意味ではなく、普段とのギャップを表すことです。「猫をかぶる」のように意図的に本性を隠すことまで意味するわけではありません。英語では「as quiet as a mouse」も使えますが、普段より静かという意味を正確に伝えるなら「unusually quiet」や「quieter than usual」が便利です。
言葉の背景を理解すると、相手の性格を決めつけず、その場で見られる変化を的確に表現できるようになります。「借りてきた猫」は、日常会話でも文章でも、人が環境によって見せる意外な一面を伝えるのに適した慣用句です。 (出典: 借り てき た 猫(Yahoo!ニュース))