公序良俗とは?民法90条の意味と契約・解雇の違反例を2026年版で徹底解説
契約書にサインした後で「この契約は公序良俗に反するため無効だ」と言われたら、契約金や違約金はどうなるのでしょうか。会社からの解雇や賃貸借契約の特約にも、公序良俗は関係するのでしょうか。
公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗」を略した法律用語です。日本の民法第90条は、公序良俗に反する法律行為を無効と定めています。2026年10月現在も、この規定は契約の有効性を判断する重要な法的基準です。ただし、社会的に好ましくないと感じる契約が、すべて直ちに無効になるわけではありません。契約の内容だけでなく、締結に至った経緯や当事者の状況なども問題になります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 意味:公序良俗は、社会の秩序や善良な風俗を守るための法理念であり、民法90条が根拠となる。
- 違反した場合:公序良俗に反する法律行為は無効となる。ただし、違反の有無は契約内容や締結経緯などを踏まえて判断される。
- 実務上の注意点:契約・解雇・賃貸借では、それぞれ適用される法律や判断基準が異なる。契約書の文言だけでなく、実態や証拠も確認する必要がある。
【公序良俗とは】意味・民法90条・法律上の役割をわかりやすく解説
公序良俗は、個人や企業が自由に契約できるという原則に対し、法律上の限界を設ける考え方です。契約は原則として当事者の合意によって成立しますが、どのような内容でも自由に決めてよいわけではありません。犯罪行為を実行する約束や、相手の窮状につけ込んで著しく不公正な条件を押しつける契約などは、法的な保護を受けられない場合があります。
民法90条には何が書かれている?
民法第90条の条文は、次のとおりです。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
出典:民法第90条
この条文は、単に契約上のマナーを定めたものではありません。社会の基本的な秩序や倫理、個人の尊厳などに照らして許容できない法律行為について、その法的効力を否定する根拠となります。条文の原文は、e-Gov法令検索で確認できます。
「公の秩序」と「善良の風俗」の意味
「公の秩序」とは、社会生活や経済活動を成り立たせるための基本的な秩序を指します。「善良の風俗」とは、社会において法的に保護されるべき基本的な道徳や倫理に関わる考え方です。両者は重なり合う部分もあり、明確に二分できるとは限りません。
例えば、犯罪の実行を依頼する契約は、社会秩序に反する典型例です。また、相手が困窮していることや判断能力の不足などを利用し、著しく不公正な利益を得る契約は、取引の公平性という観点から問題になる可能性があります。
英語では「public policy」と表現される
公序良俗に関連する英語表現としては、public policyやpublic order and good moralsなどがあります。英米法のpublic policyは、公の利益や法秩序に反する合意の効力を否定する場面で使われる概念です。ただし、日本の民法90条と英米法のpublic policyは、法体系や具体的な適用基準が異なるため、完全に同じ意味と考えるのは適切ではありません。

【公序良俗違反の具体例】どんな契約が無効になる可能性がある?
公序良俗違反が問題になる場面は、犯罪に関する契約だけではありません。金銭の貸し借り、不動産取引、贈与、雇用など、さまざまな法律関係で争点になります。重要なのは、契約の名称や当事者の合意の有無だけではなく、その内容や成立過程が法的に許容されるかどうかです。
具体例1:犯罪行為を目的とする契約
殺人や詐欺などの犯罪行為を実行することを目的とした契約は、公序良俗に反する典型例です。当事者同士が合意し、契約書まで作成していたとしても、その合意が法律上保護されることにはなりません。
ただし、犯罪に関連する取引のすべてが同じ法的扱いになるわけではありません。取引の内容や当事者の関与、適用される個別法令などによって、検討すべき問題は異なります。
具体例2:相手の窮状につけ込む暴利行為
暴利行為とは、相手の困窮、経験不足、知識不足などを利用して、著しく過大な利益を得たり、相手に著しく不利益な条件を負担させたりする行為です。民法90条に基づく公序良俗違反が問題になる代表的な類型です。
例えば、資金繰りに困っている相手の事情を認識し、その弱みにつけ込んで、資産価値に比べて著しく不利な条件で不動産を売却させるケースが考えられます。ただし、売買価格が市場価格より安いという事情だけで、直ちに契約が無効になるわけではありません。価格差の程度、相手の状況、取引に至った経緯などを総合的に検討する必要があります。
裁判所の公表判決でも、相手に著しく過大な不利益を与える客観的な要素と、相手が合理的に判断できない状況を利用したという事情の双方が、暴利行為の判断に関わることが示されています。
具体例3:著しく不公正な金銭負担を課す契約
実際の損害やサービスの対価に照らして著しく高額な違約金、解約時の負担金、報酬などを定めた契約も、内容や締結経緯によっては公序良俗違反が問題になります。
例えば、相手が契約内容を十分に理解できない状況を利用して、提供するサービスに見合わない巨額の金銭を支払わせる合意を結んだ場合です。ただし、高額であることだけを理由に無効と決めつけることはできません。契約の目的、実際の費用や損害、当事者間の交渉状況などを確認する必要があります。
具体例4:人格や自由を不当に侵害する契約
個人の尊厳や基本的人権を著しく侵害する内容の合意も、公序良俗との関係で問題になります。例えば、本人の自由な意思を不当に拘束し、人格を著しく損なう義務を負わせる契約などです。
一方、恋愛や交友関係に関する約束、競業避止義務、秘密保持義務などは、内容や目的、制限の範囲によって評価が異なります。一般的な道徳観に照らして好ましくないというだけで、契約全体が無効になるわけではありません。
具体例からわかる重要なポイント
公序良俗違反を判断する際には、契約が不公平に見えるかどうかだけでなく、その不公平がどの程度重大なのか、相手の弱い立場が利用されたのか、社会的に許容できない目的や結果を伴うのかが問題になります。また、民法90条以外の法律によって無効や取消しなどが認められる場合もあるため、根拠となる法律を区別して考えることが大切です。
【公序良俗の判断基準】裁判所は契約の何をチェックする?
公序良俗違反かどうかを判断する際、契約書の一文だけを切り取って評価するとは限りません。契約の内容、目的、当事者の関係、契約締結までの経緯、当事者が置かれていた状況など、具体的な事情を踏まえて判断されます。
法務省が公表した民法改正に関する立法資料でも、従来の裁判例では、法律行為の内容だけでなく、成立に至る過程やその他の諸事情も公序良俗の判断に考慮されてきたことが説明されています。
判断で確認される主なポイント
実務では、次のような観点を整理すると、問題の所在を把握しやすくなります。
- 契約の目的:犯罪や著しく反社会的な行為を目的としていないか。
- 契約条件の公平性:対価や負担が著しく不均衡になっていないか。
- 当事者の状況:困窮、経験不足、知識不足など、合理的な判断を妨げる事情がなかったか。
- 締結までの経緯:重要な情報の隠蔽、強引な勧誘、不当な圧力などがなかったか。
- 社会的な影響:個人の尊厳や社会の基本的な秩序を著しく損なう内容ではないか。
これらは、すべての案件で機械的に適用されるチェックリストではありません。契約の種類や争点によって重視される事情は異なります。特に暴利行為では、条件の不均衡と相手の状況を利用した経緯をあわせて検討することが重要です。
契約の種類ごとに見る判断の違い
| 対象となる行為 | 主な確認ポイント | 法的な注意点 |
|---|---|---|
| 金銭貸借・不動産売買 | 金額や対価の不均衡、相手の窮状、交渉の経緯 | 価格差や高額な負担だけで、直ちに無効とは限らない |
| 報酬・違約金の合意 | 実際の費用や損害、負担額の合理性 | 契約全体または条項の効力が問題になることがある |
| 雇用・解雇 | 解雇理由、手続、労働者の権利、関連する法令 | 労働契約法など、労働関係の個別ルールも適用される |
| 賃貸借契約 | 特約の内容、説明と合意、借地借家法などとの整合性 | 借主に不利な特約がすべて無効になるわけではない |
| 犯罪などを目的とする契約 | 合意の目的、具体的な内容、適用される法令 | 公序良俗違反によって法律行為が無効になる典型例 |
判断の核心は、単に「不公平かどうか」ではなく、法律が契約自由の原則をどこまで認め、どの時点で介入すべきかという点にあります。取引には価格交渉やリスク分担が伴うため、不利な契約をすべて無効にすると、かえって取引の予測可能性が損なわれます。そのため、具体的な事情を踏まえた慎重な判断が求められます。

【契約・解雇・賃貸借】公序良俗違反のリスクと実務上の注意点
公序良俗は、契約書を作成する企業だけに関係する概念ではありません。働く人、賃貸住宅を借りる人、不動産を売買する人、サービスを購入する人にも関係します。ただし、解雇や賃貸借契約には個別の法律があるため、すべての問題を民法90条だけで判断することはできません。
契約で注意すべきポイント
契約の有効性をめぐる紛争では、契約書に記載された条件と実際の取引状況が重要になります。特に、高額な違約金、過度な損害賠償、著しく不均衡な報酬、解約を実質的に困難にする条件などについては、契約の目的や負担の根拠を確認する必要があります。
契約を締結する側は、条件を設定した理由や算定根拠を説明できるようにしておくと、後の紛争予防に役立ちます。契約する側も、相手の説明を口頭だけで済ませず、金額、期間、解除条件、違約金の計算方法などを書面で確認することが大切です。
公序良俗と解雇の関係
会社による解雇については、民法90条だけでなく、労働契約法などの規定が重要です。労働契約法第16条は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、権利濫用として無効になると定めています。
厚生労働省も、解雇には合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、労働者の行為や会社が被った損害、事情の程度などを考慮すると説明しています。
例えば、法令上保護された権利の行使を理由に解雇したり、法的な保護を回避する目的で形式上の退職合意を取り付けたりした場合は、具体的な事情に応じて解雇や合意の有効性が争われる可能性があります。ただし、「公序良俗解雇」という独立した一律の判定基準があるわけではありません。実際には、解雇権濫用法理や関連する労働法規に照らして判断する必要があります。
賃貸借契約の特約はどこまで有効?
賃貸住宅の契約では、退去時の原状回復費用、修繕負担、違約金、解約条件などの特約が問題になることがあります。借主に不利な特約があったとしても、それだけで当然に無効になるわけではありません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のQ&Aでは、借主に通常の原状回復義務を超える負担を課す特約について、特約の必要性や合理性、借主が負担内容を認識していたか、負担する意思を示していたかなどが重要なポイントとして示されています。また、借地借家法や消費者契約法などの規定に反する場合には、特約が無効となることもあります。
したがって、賃貸借契約では「借主が署名したから必ず有効」「借主に不利だから必ず無効」という二者択一で考えるのは危険です。特約の具体的な内容、説明の有無、合意の実態、適用される法律を分けて確認しましょう。
公序良俗違反をめぐるリスク
公序良俗違反が認められた場合、法律行為が無効となり、契約に基づく請求が認められないなどの影響が生じる可能性があります。すでに金銭や財産が移転している場合には、返還の可否や範囲が別の問題になることもあります。
また、契約全体が無効になるのか、一部の条項が問題となるのか、損害賠償や不当利得返還請求などが認められるのかは、事案によって異なります。公序良俗違反を主張すれば、支払った金銭が必ず返ってくるというわけではありません。
公序良俗違反を回避するための方法
契約を作成する企業や個人が、紛争のリスクを抑えるために取り組めることは次のとおりです。
- 契約の目的を明確にする:契約の目的や提供するサービスの内容が、法令や社会の基本的な秩序に反していないか確認する。
- 金額や条件の根拠を残す:報酬、違約金、解約料などの算定方法を明確にし、合理性を説明できる資料を保管する。
- 重要事項を事前に説明する:相手が契約条件やリスクを理解できるよう、専門用語や不明確な条項を整理する。
- 不当な圧力を避ける:相手の困窮や判断力の不足を利用して、過大な負担を受け入れさせない。
- 個別法令を確認する:労働法、借地借家法、消費者契約法など、契約の種類に応じた規制を調べる。
- 問題のある条項を見直す:過度な制限や不均衡な負担がある場合は、契約締結前に修正を検討する。
これらの対応は、公序良俗違反を必ず防げることを保証するものではありません。しかし、契約条件の合理性と合意の実態を明確にすることで、紛争の予防や事実関係の確認に役立ちます。
【無効と取消しの違い】公序良俗違反なら契約はどうなる?
公序良俗を理解するうえで、特に重要なのが「無効」と「取消し」の違いです。日常会話では似た意味で使われることがありますが、法律上は異なる仕組みです。
無効とは、法律行為が初めから効力を持たないこと
民法90条により公序良俗に反すると判断された法律行為は、無効となります。原則として、初めから法的効力を生じないものとして扱われます。そのため、当事者が契約を締結したという事実だけでは、契約に記載された義務の履行を請求できるとは限りません。
ただし、無効を主張する場合にも、契約内容や締結経緯など、無効の根拠となる事実を示す必要があります。争いになった場合は、裁判などで契約の効力が判断されることがあります。
取消しとは、取り消すことができる法律行為の効力を否定すること
取消しは、法律上認められた取消権を持つ人が、その権利を行使することで法律行為の効力を否定する仕組みです。例えば、詐欺や強迫による意思表示については、民法の要件を満たす場合に取り消せることがあります。
取消しが行われるまでは、無効の場合とは異なり、法律行為が取り消されていない状態にあります。取消しが有効に行われると、民法第121条により、原則として初めから無効であったものとみなされます。
無効と取消しの違いを比較
- 効力の基本:無効は初めから効力がない。取消しは、取り消すことができる法律行為について、取消権を行使することで効力を否定する。
- 必要な対応:無効は、根拠となる事情を示して無効を主張する。取消しは、原則として取消権を持つ人が取消しの意思表示をする。
- 根拠となる事情:公序良俗違反は民法90条、詐欺や強迫による意思表示は民法96条など、適用される規定が異なる。
- 期間の制限:取消権には民法126条などの期間制限がある。無効の主張についても、第三者との関係や返還請求権など、別の法的問題が生じる場合がある。
なお、無効と取消しは、当事者が自由に選べる同じ手続ではありません。契約が無効なのか、取消しが可能なのかは、契約内容と具体的な事情、適用される条文によって判断されます。

【公序良俗とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:公序良俗に反する契約は、当事者が合意していても無効になりますか?
A1:はい。民法90条の要件を満たす公序良俗違反の法律行為は、当事者双方が合意していても無効になります。ただし、不公平に見える契約がすべて無効になるわけではなく、内容や締結経緯などを踏まえた判断が必要です。
Q2:公序良俗違反を主張すれば、支払ったお金は必ず返してもらえますか?
A2:必ず返還されるとは限りません。法律行為が無効であっても、すでに行われた給付の返還については、民法708条の不法原因給付など、別の規定が問題になることがあります。返還を求められるかどうかは、具体的な事実関係や適用される法律によって異なります。
Q3:公序良俗に反する賃貸借契約の特約は、すべて無効ですか?
A3:いいえ。借主に不利な特約がすべて無効になるわけではありません。特約の必要性や合理性、説明と合意の実態、借地借家法や消費者契約法などとの整合性を確認する必要があります。
まとめ:公序良俗の判断基準を理解して契約トラブルを防ぐ
公序良俗とは、公の秩序や善良の風俗を守るための法理念であり、民法90条は、これに反する法律行為を無効と定めています。犯罪行為を目的とする契約や、相手の窮状につけ込んで著しく不公正な条件を押しつける暴利行為などが、代表的な問題類型です。
一方、契約が不公平に見えるという理由だけで、直ちに公序良俗違反になるわけではありません。契約内容、対価の均衡、当事者の状況、締結までの経緯などを総合的に検討する必要があります。解雇や賃貸借契約では、民法90条に加え、労働契約法、借地借家法、消費者契約法などの個別ルールも確認しましょう。
【プロの結論】公序良俗を判断する際に大切なのは、「納得できない契約かどうか」だけでなく、「どの法律が適用され、どの事実が無効の根拠になるのか」を整理することです。契約を結ぶ前には、条件の合理性と説明の十分さを確認し、契約後に争いが生じた場合には、契約書、説明資料、メール、交渉記録などを保全することが実務上の基本です。無効と取消しの違いも踏まえ、問題のある契約については、早い段階で弁護士などの専門家に相談することが、損失や紛争の拡大を防ぐうえで有効です。 (出典: 公序良俗 と は(Yahoo!ニュース))